カルチャー
甘ロリのルーツ
ロココのロマンから、日本の「かわいい」へ
甘ロリのドレスは、驚くほどかわいらしく見えることがあります。
ふんわり膨らむスカート。
リボン。
レース。
パステルカラー。
小さなリボン結び。
イチゴ、ケーキ、花、クマ、リボンなど、遊び心のあるモチーフ。
一見すると、すっかり現代的な空想の世界に思えるかもしれません。
でも、よく見ると、もっと古い服飾の伝統が顔をのぞかせます。
丸みを帯びたシルエット。
手の込んだ装飾。
ロマンティックな色。
レースやリボン、飾りへの強い思い入れ。
人形のように装う感覚。
甘ロリは、何もないところから突然生まれたわけではありません。
歴史上のヨーロッパの服、日本の「かわいい」という感覚、現代のストリートファッションの表現。その中から要素を選び、新しく解釈することで日本で生まれました。
ロリィタの歴史的な着想源としてよく挙げられるのが、バロックやロココの華やかな装飾、そしてヴィクトリア朝のドレスのシルエットです。
ただし、それぞれの時代をそのまま写したものではありません。
それらは、いわば素材でした。
日本では、その素材を使ってまったく新しいものが作られたのです。
バロック
華やかさを好む気質
ロリィタと聞いてパステルカラーのドレスや大きなリボンを思い浮かべるようになるずっと前から、ヨーロッパの服飾には、目を引く過剰な装飾を好む長い歴史がありました。
バロックの服装に見られるのは、壮麗さ、緻密な装飾、そして一目で贅沢とわかる装いを求める姿勢です。
豪華な織物。
飾り縁。
刺繍。
宝飾品。
大ぶりな装飾。
身体そのものが、富や職人の技、地位を示す場にもなっていました。
バロックの美意識が、そのまま現代の甘ロリのドレスの設計図になったわけではありません。
それでも、装飾を愛する感覚は、ロリィタの中でも手の込んだデザインに見て取れます。
現代のプリンセス風の甘ロリドレスを見てみましょう。
何層ものレース、
いくつものリボン、
飾りボタン、
刺繍のモチーフ、
大きなリボン結び、
装飾を施した切り替え部分、
そして、どこに目を向けるか迷うほど丁寧に作られた細部。
どれも、最小限に抑える必要はありません。
装飾の多いドレスほど、たくさん飾るからこそのよさを楽しんでいるように見えます。
ここで、バロックの感覚と比べるとわかりやすくなります。
甘ロリが歴史上のバロック衣装だからではなく、
どちらも装飾に意味を見いだしているからです。



ロココ
甘ロリのロマンティックな感覚
バロックが壮麗さの表現をもたらすとすれば、ロココは、多くの人が甘ロリに感じる情緒に、より近いところにあります。
ロココは18世紀のヨーロッパで、軽やかで遊び心のある装飾様式として発展しました。
バロックの重厚な華やかさに対し、ロココは優雅さ、繊細さ、左右非対称の装飾、パステルカラー、ロマンティックな意匠で知られるようになりました。
ピンク。
パウダーブルー。
ミント。
クリーム。
ラベンダー。
やさしい花のモチーフ。
リボン。
フリル。
レース。
甘ロリをよく見ている人なら、どれもすぐに親しみを感じる要素でしょう。
このつながりは、お菓子を思わせる色づかいのドレスで特にはっきりと見えます。
リボンとバラをあしらった淡いピンクのドレス。
ケーキで飾られたミントグリーンのスカート。
レースに囲まれたラベンダー色のJSK。
繊細なフリルで縁取られたボンネット。
どれも、まさに日本の、今の服だと感じられるデザインです。
それでも、そのロマンティックな雰囲気には、18世紀のヨーロッパの装飾を思わせるところがあります。
だからこそ、甘ロリを語るうえでロココは大切な参照先なのです。
厳密な歴史の型としてではなく、やわらかさや装飾、空想を形にするための表現を与えてくれます。




ヴィクトリア朝
シルエットを作る
もうひとつ、大きな影響があります。
ヴィクトリア朝の服飾です。
ロココがロリィタの装飾やロマンティックな面を理解する手がかりなら、ヴィクトリア朝の服は、シルエットや装いの構成を考える手がかりになります。
首元まで詰まった襟ぐり。
身体に沿う身頃。
ギャザーを寄せた袖。
レースの襟。
装飾的な袖口。
たっぷり広がるスカート。
重ねたペチコート。
リボン結び。
控えめな露出と装飾を丁寧に両立させるロリィタの服には、19世紀の子ども服や女性服に通じる特徴がしばしば見られます。
なかでも、シルエットは重要です。
ロリィタのスカートは、ただ身体から垂れ下がっているのではありません。
形を作っているのです。
ペチコートなどの下に着るものがボリュームを生み、丸みのある、あるいは釣鐘型のシルエットを作ります。これは、ロリィタファッションを特徴づける形のひとつになりました。
ロリィタが、一般的な現代のワンピースと大きく違って見える理由のひとつです。
服は単に身体の線をなぞるのではなく、
身体の周りに新たな形を生み出します。




それでも、ロリィタはヴィクトリア朝の再現衣装ではない
この区別は大切です。
ロリィタのドレスを見て、こう言いたくなることがあります。
「ヴィクトリア朝風だね」
あるいは、
「ロココだね」
でも、どちらも完全に正確な説明ではありません。
ロリィタは現代の日本のファッションです。
Victoria and Albert Museumは、ロリィタを1990年代に登場した日本のストリートスタイルと説明しています。ロココやヴィクトリア朝などの歴史的な要素を、日本の「かわいい」という感覚や現代のサブカルチャーと組み合わせたものです。
つまり、ロリィタは歴史上の衣服一式を再現するものではありません。
歴史の中から選び取るのです。
デザイナーは、ヴィクトリア朝の襟を選ぶかもしれません。
ロココ風のリボンの配置。
人形のようなシルエット。
現代的なプリント。
日本のかわいいモチーフ。
そして、それらを一着のまったく新しいドレスにまとめます。
この「選ぶ」という行為が欠かせません。



そこに、日本ならではのものが加わる
歴史的な着想源だけでは、甘ロリを説明しきれません。
それだけで説明できるなら、単にヨーロッパの歴史的な服装と呼べばよいはずです。
変化が生まれたのは、そうした要素が日本の若者文化や、長く親しまれてきた「かわいい」への感覚と出会ったときでした。
日本のファッションには、すでにかわいいを中心とした豊かな表現が育っていました。
かわいいキャラクター。
人形。
小さな物。
甘い食べ物。
花。
動物。
子どもらしいモチーフ。
やさしい色。
遊び心のあるアクセサリー。
こうした発想は、服にも取り入れることができます。
やがて、それらはロリィタを形づくる要素の一部になりました。
ここから、現代の甘ロリのドレスは、着想源となったヨーロッパの服とは違うものになっていきます。
ヴィクトリア朝のドレスにはレースがあるかもしれません。
ロココのドレスにはリボンがあるかもしれません。
でも、甘ロリのドレスなら、こんな組み合わせもあります。
レース+リボン+イチゴ+クマ+ケーキのモチーフ+大きなリボン結び+ペチコート+パステルピンク。
できあがるのは、歴史の再現ではありません。
空想の世界です。



ヨーロッパの歴史から原宿へ
この物語は、18世紀や19世紀のヨーロッパで終わるわけではありません。
やがて日本へとたどり着きます。
ロリィタファッションは20世紀末、特に原宿(Harajuku)のオルタナティブなファッションシーンを通じて、日本のストリートファッションのひとつのサブカルチャーとして姿を現しました。1990年代にはスタイルがより明確になり、専門のブランドもその表現を形づくっていきました。
Baby, the Stars Shine BrightやMetamorphoseといったブランドは、発展するロリィタファッションの中で重要な存在になりました。一方、ほかのブランドはGothicやClassic、そしてより装飾の多いスタイルを探っていきました。
その結果生まれたのは、博物館にあるようなヨーロッパの衣服の複製ではありません。
ストリートファッションでした。
実際に着ることができるもの。
コミュニティのものになり得るもの。
変化し続けられるもの。
甘ロリは、その変化から生まれた、特に広く知られるスタイルのひとつになりました。


一着のドレス以上のもの
だから、甘ロリをただ「かわいい服」と呼ぶだけでは、大切なものを見落としてしまいます。
ドレスは、目に見える表面にすぎません。
その背景には、さまざまな視覚的な着想が連なっています。
ヨーロッパの装飾の伝統。
ヴィクトリア朝のシルエット。
日本のかわいい文化。
原宿のストリートファッション。
独立系のデザイナー。
サブカルチャーのコミュニティ。
紙の雑誌。
音楽。
イラスト。
空想。
そして、着る人それぞれの想像力。
ロリィタファッションは、歴史的な衣装ではありません。
単なる現代の流行でもありません。
時代のコラージュなのです。
何百年も前の視覚的な発想が、現代の日本のデザインと共存できます。
ロココ風のリボンの隣に、現代のカートゥーン柄があってもいい。
ヴィクトリア朝を思わせるシルエットに、イチゴ柄をのせてもいい。
歴史的な形を参考にしたボンネットに、厚底靴を合わせてもいい。
過去は、過去のままでなくてもよいのです。
新たにデザインすることができます。
